むかし、じゃんけん小僧という者がいた。
 遊んでいると時間のたつのが早い。夢中になってそこらを走り回っていた子供がふと気づくと、すでに空は夕焼けて日は没した後だ。空気がにわかに冷たく感じられて、どの子もあわてて家路につく。じゃんけん小僧はそんなときに現れる。

   かさこそと落ち葉が風に吹かれて音を立てる道を五郎が歩いていると、不意に声が聞こえた。
「じゃんけんしよう、じゃんけんしよう」
 見ると、青白い顔をした子供が一人、眼の前に立っている。暗くてよくわからないが、近辺では見たこともないやつだ。でも、誰かに似ているような気もする。隣のクラスのやつだったかな。誰かの弟だったかもしれない。そんなことを思い始めたときには足が止まって、もうじゃんけんするしかなくなっている。
「じゃんけん、ほい」
 五郎の負けだ。五郎は「石」。相手は「紙」だった。
「じゃんけん、ほい」
 また負けた。五郎が今度は「はさみ」、相手は「石」だ。
「三回負けたら指を一本くれるんだぞ」
 五郎はえっと思ったが、相手は抗議する間を与えない。
「じゃんけん、ほい」
 また負けた。五郎がちょっと考えて「石」を出したら相手はちゃんと「紙」を出してきたのだ。
「では、指を一本もらうよ」
 あっと思ったときにはもう、五郎の親指は何かで切り取られていた。血がどくどく流れる。ずきずきと痛む。
「じゃんけん、ほい」
 五郎は泣きたくなった。早く家に帰りたい。でも、じゃんけん小僧に出会ったら、なかなか帰してもらえない、ということをどこかで聞いたように思った。
 ------言ったでしょう、暗くなる前に帰っておいでって。
 母親がそういうのが眼に浮かんだ。そうだ。自分は親の言いつけを守らなかったから、罰が当たったんだ。しかたないんだ。
「じゃんけん、ほい」
 五郎は何回もじゃんけんをさせられ、そのたび負けた。親指の次に小指を切られ、小指の次は人差し指を切られた。もう、中指と薬指の二本しか残っていない。
「じゃんけん、ほい」
 相手が「石」、五郎は「紙」を出した、つもりだった。でも、二本しか指がないのでそれは「はさみ」にしかならなかった。
「おまえは、どうしてそんなに弱いんだ」
 じゃんけん小僧はそう言うとにたりと笑った。五郎は何も言えなかった。血はますますどくどく流れるし、痛みはずんずん増すばかりだ。
 それからも五郎は負け続け、薬指を切られ、中指を切られた。もう、指がない。
「じゃんけん、ほい」
 じゃんけん小僧が「紙」を出したとき、五郎は「はさみ」を出したつもりだった。だが、指がないのでそれはどうみても「石」にしかならなかった。五郎はやはり負けた。
「おまえは本当に弱いなあ」
 じゃんけん小僧はにたにたと笑った。五郎は痛くて恐ろしくて痛くて恐ろしくて、もうどうしていいかわからなくて、ただ泣きじゃくっているばかりだった。じゃんけん小僧はそれでもまだやめようとしなかった。今度三回負けたらどうなるか、五郎は気が気でなかった。
「じゃんけん、ほい」
 じゃんけん小僧が「紙」を出そうとした。すると、そのときかすかな風が一枚の楓の葉を運んできた。それはふわりと、五郎の指のない手の上に止まり、まるで五郎が手を広げたようにみえた。じゃんけん小僧はあわてて「はさみ」に変えたが、そうした途端葉っぱは落ちて、五郎の手が現れた。指のない手はどうみても「石」だった。じゃんけん小僧はあっけにとられ、「負けた」とひとこと言うと、すうっと消えたという。


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