ふたり

 

 ジェイソンとローズマリーが恋の語らいの真っ最中だ。
「ねえ、ローズマリー。ぼくは君に夢中さ」
「私もだわ」
 この際注意しなければならないのは、ジェイソンもローズマリーもエチゼンクラゲだということだ。
「君といつもいっしょにいられたらどんなに幸せだろう」
 そう言いながらジェイソンがローズマリーのほほをゆらゆら揺れる第一触手でやさしく触れたとしても、同じときに第38触手はあかんべえをしているかもしれず、第71触手はぼりぼりと尻をかき、第96触手はその場にまったく無関係な曲のリズムを取っているかもしれず、さらに第164触手はすぐ後ろにいる他のメスクラゲの胸を愛撫しているかもしれないのだ。
 もちろん、ローズマリーだって事情は同じだ。
「私だって。でも、離れていても心はいつもいっしょよ」
 そう言いながらローズマリーがジェイソンの厚い胸に第3触手と第7触手を預けたとしても、第43触手は他の男に携帯メールを打っているかもしれず、第96触手と第17触手で夕べゆきずりの男につけられたキスマークを隠しているかもしれず、そればかりか第128触手と第129触手は退屈さに辟易してどうでもいい編み物でもしているかもしれないのだ。
「ねえ、君のことを信じていいかい」
「あら、それは私が言うせりふだわ」
 ジェイソンがそっと伸ばした第203触手がローズマリーの第128触手と第129触手に触れ、ぎくりとする。
「ねえ‥‥編み物してるの?」
「そうよ」
 ローズマリーは一瞬の沈黙の後、平然と言う。
「あなたの触手が冷えないように、手袋を編んでるの」
 ジェイソンは納得するが、私は到底こういう生き物を信用することはできない。

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