釣 り
夜ごと私は釣りに行く。深い森の中を分け入り、ぽっかり開けたところにある池の端に腰をおろし、月明かりの下、糸を垂らす。糸の先にはもう一人の私がいて、水底から無言で私を見ている。
私はじっと「引き」を待つが、一晩かかっても何の反応もない。
それでも私は竿をかつぎ、夜ごと釣りに行く。いつの日か私は私自身を釣り上げる。暗い水底から上がってきたもう一人の私を抱きしめ、「やあ」という。「ずいぶん永くかかってしまったよ」と声をかけてやる。ぼたぼたと服から水をしたたらせ、黙ってうなずくそいつを見ているうち、私は胸がいっぱいになるだろう。
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